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新潟地方裁判所三条支部 平成8年(ワ)44号 判決 2000年1月28日

主文

一  原告と被告株式会社三条中央自動車学校との間において、原告が被告株式会社三条中央自動車学校の額面普通株式(額面一株式一万円)六一株を有することを確認する。

二  被告株式会社三条中央自動車学校は原告に対し、被告株式会社三条中央自動車学校の額面普通株式(額面一株式一万円)一七株を交付せよ。

三  原告の被告株式会社三条中央自動車学校に対するその余の請求を棄却する。

四  原告と被告株式会社宮内モーターサービスとの間において、原告が被告株式会社宮内モーターサービスの額面普通株式(額面一株式一万円)一五株の株主であることを確認する。

五  被告株式会社宮内モーターサービスは原告に対し、被告株式会社宮内モーターサービスの額面普通株式(額面一株一万円)一五株を交付せよ。

六  被告株式会社宮内モーターサービスが、平成七年一二月七日に行った額面普通株式三〇〇株の新株発行が無効であることを確認する。

七  被告株式会社宮内モーターサービスが、平成七年一二月一三日に行った額面普通株式六〇〇株の新株発行が無効であることを確認する。

八  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

以下、被告株式会社三条中央自動車学校を「被告三条中央」、被告株式会社宮内モーターサービスを「被告宮内モーター」という。

第一  請求

一  被告三条中央に対する請求

1  主文一項と同じ。

なお、原告が被告三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)四四株を有することについては当事者間に争いがなく、原告は右四四株以外に被告三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)一七株を有することの確認を求めていることから、原告の請求は、被告三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)六一株を有することの確認を求めているものと善解するのが相当である。

2  主文二項と同じ。

3  被告三条中央が、平成七年一二月一三日に行った額面普通株式六〇〇株の新株発行が無効であることを確認する。

二  被告宮内モーターに対する請求

主文四項ないし七項と同じ。

第二  事案の概要

一  原告の主張

1  西潟洋一(原告の父)は、被告三条中央の設立発起人となり、設立時に発行する株式一〇〇株の内一七株を引き受けた。

西潟洋一の右株式の申込証拠金は、株式会社長岡モーターサービス(以下「長岡モーター」という。)が長岡信用金庫(以下「長岡信金」という。)から一〇〇万円借り受け、西潟洋一に一七万円貸し付けた。

2  西潟洋一は、被告宮内モーターの設立発起人となり、設立時に発行する株式一〇〇株式会社の内一五株を引き受けた。

西潟洋一の右株式の申込証拠金は、長岡モーターが長岡信金から一〇〇万円借り受け、西潟洋一に一五万円貸し付けた。

3  西潟洋一の死亡により、遺産分割協議によって、西潟洋一が被告両名に対して有していた権利は西潟洋一の長男である原告が取得した。

4  被告三条中央及び被告宮内モーターはいずれも定款で株式譲渡には取締役会の承認が必要とされており、いずれも株主が新株発行の引受権を有する(商法二八〇条の五の二)。

5  平成七年一二月一三日、被告三条中央が額面普通株式六〇〇株の新株発行(以下「本件新株発行(一)」という。)を行うに際して、原告に対する引受権の通知(商法二八〇条の五第一項)、新株発行の公示・通知(商法二八〇条の三の二)を行っていない。

6  平成七年一二月七日、被告宮内モーターが額面普通株式三〇〇株の新株発行(以下「本件新株発行(二)」という。)を行うに際して、原告に対する引受権の通知(商法二八〇条の五第一項)、新株発行の公示・通知(商法二八〇条の三の二)を行っていない。

7  平成七年一二月一三日、被告宮内モーターが額面普通株式六〇〇株の新株発行(以下「本件新株発行(三)」という。)を行うに際して、原告に対する引受権の通知(商法二八〇条の五第一項)、新株発行の公示・通知(商法二八〇条の三の二)を行っていない。

8  よって、原告は被告両名に対し、各株主権の確認、株式の交付を求めるとともに、本件新株発行(一)ないし(三)の無効確認を求める。

二  被告らの主張

1  被告三条中央及び被告宮内モーターは、いずれも、長岡モーターの経営合理化の観点から、昭和四九年に法人格を取得したにすぎず、そのときに被告両名の株主として原告の名を借りたものである。

被告両名の設立にあたり、原告名義の出資分は長岡モーターが出資したのであって、原告は出資しておらず、被告両名の株主にはなっていない。

原告は、被告両名の株主ではなかったのであるから、原告に対して株主総会等の通知は一切していない。

2  原告は、平成七年一二月の被告三条中央の増資に際して四四株分(四四万円)を出資して、初めて被告三条中央の株主となったものである。

原告は、現在も、被告宮内モーターの株主ではない。

三  争点

1  西潟洋一は、被告両名の設立時、被告両名の株主となったものといえるか。

2  本件新株発行(一)ないし(三)は、株主への引受権の通知、新株発行の公示・通知を欠いたものか、欠いている場合新株発行は無効なものといえるか。

第三  当裁判所の判断

一  本件紛争に至る経緯

証拠(後掲各証拠、証人西潟一枝、分離前原告大桃稔、分離前原告丸山久作、原告本人、被告宮内モーター代表者本人)及び弁論の全趣旨(争いのない事実を含む。)によれば以下の事実が認められる。

1  昭和三〇年ころ、内山由蔵、今井与三郎、高田俊夫、関勇次の四名が出資して、「長岡自動車学校」の名称で自動車学校の共同経営を始めた(乙一〇、一一)。

当時、教習所は、長岡市の宮内という地区にあった。

昭和三七年ころ、長岡自動車学校は、法人化して長岡モーターとなった(甲二六)。

昭和三二年ころ以降からは、内山由蔵、今井与三郎、高田俊夫、関勇次の四名は他の仕事が多忙なため、長岡モーターには余り顔を出さず、長岡モーターを実際に切り盛りしていたのは丸山久作であった。

2  昭和三八年、長岡モーターが新潟県三条市に自動車教習所を開設するに際して、西潟洋一は長岡モーターに対して、教習所用地として農地一町二反(一二〇アール)を売り渡した。

西潟洋一は、農業をやめて、長岡モーターの教習所の指導員になった。

3  昭和四九年、長岡モーターの三条市の自動車教習所と長岡市の自動車教習所が、いずれも長岡モーターから独立して新会社を設立し、長岡モーターから教習所用地を賃借りして自動車教習所を経営することになった。

被告三条中央と被告宮内モーターの設立にあたり、長岡モーターは長岡信金から三〇〇万円を借受け、このうち一〇〇万円を被告三条中央の設立資金、一〇〇万円を被告宮内モーターの設立資金、一〇〇万円を長岡モーターの運転資金に充てた。

4  被告三条中央は、昭和四九年二月一日、発行済株式の総数一〇〇株、額面株式一株の金額一万円、資本の額一〇〇万円で設立された(甲五の一)。

その際の定款(甲六)には、西潟洋一の出資株数は一七株(金額一七万円)と記載されている。被告三条中央においては、株式譲渡には取締役会の承認が必要とされている(甲五の一、六)。

西潟洋一の出資金一七万円は、丸山久作が、長岡信金から借受けた金員の中から一七万円を西潟洋一名義で金融機関に振込んだものである。

なお、西潟洋一は、右一七万円を長岡モーターには返済していない。

5  被告宮内モーターは、昭和四九年二月二三日、発行済株式の総数一〇〇株、額面株式一株の金額一万円、資本の額一〇〇万円で設立された(甲一一の一)。

株主名簿(乙三)及び株式引受証(乙四の二)の記載によれば、西潟洋一の出資株数は一五株(金額一五万円)となっている。被告宮内モーターにおいては株式譲渡には取締役会の承認が必要とされている(甲一一の一、乙四の三)。

西潟洋一の出資金一五万円は、丸山久作が、長岡信金から借受けた金員の中から一五万円を西潟洋一名義で金融機関に振込んだものである。

なお、西潟洋一は、右一五万円を長岡モーターには返済していない。

6  昭和四九年ころ、西潟洋一は、内山由蔵、今井与三郎、高田俊夫、関勇次の四名に対し、教習所の経営をしたい旨申し出ていた。

そこで、当初、内山由蔵、今井与三郎、高田俊夫、関勇次の四名の話し合いにより、西潟洋一が被告三条中央の代表取締役に、丸山久作が被告宮内モーターの代表取締役になるということになった。

しかし、丸山久作が代表取締役になるのを辞退したため、西潟洋一が、被告三条中央及び被告宮内モーターの初代の代表取締役に就任した。

西潟洋一の被告三条中央での役員報酬は、昭和五三年の時点で年間六〇〇万円である(甲七)。また、西潟洋一の被告宮内モーターでの役員報酬は、昭和四九年の時点で年間一〇〇万円である(乙四の二)。

7  内山由蔵、今井与三郎、高田俊夫、関勇次の四名は、被告三条中央にも、被告宮内モーターにも余り顔を出さず、被告三条中央の実際の経営は西潟洋一が行い、被告宮内モーターの実際の経営は丸山久作が行い、西潟洋一が丸山久作を補助していた。

西潟洋一は、昭和五四年七月九日に被告宮内モーターの代表取締役を退任し、被告三条中央の代表取締役在任中の同年一一月二八日に死亡した(甲一の二、甲五の二ないし五、甲一一の二ないし五)。

8  西潟洋一の死亡により、遺産分割協議によって、西潟洋一が被告両名に対して有していた権利(当初、原告は、被告宮内モーターの株式数は一〇株と認識していたが、本件訴訟中に一五株に訂正した。)は、西潟洋一の長男である原告が取得した(甲一の一ないし三、甲四五の一)。

9  西潟洋一の死亡後、原告は勤務先を辞し、名古屋にある中部日本自動車学校豊田教育センターに入って教育を受けたのち、昭和五八年八月一日に被告三条中央に指導員として入社した。

10  昭和六〇年三月一六日、被告宮内モーターは、新株二〇〇株(一株一万円)を発行した。

これに対し、原告は、被告宮内モーターを相手として、新潟地方裁判所長岡支部に新株発行無効確認の訴えを起こした(同支部昭和六〇年(ワ)第一〇一号、以下「長岡支部の裁判」という。)。

長岡支部の裁判において、原告は請求原因として、「原告は、被告宮内モーターの株主であり、一〇株を所有している。」旨主張し、被告宮内モーターは、右主張事実を認めた(甲一三)。

長岡支部の裁判において、同支部は、昭和二八〇条の三の二の所定の公告又は通知をせずに株主以外の第三者に有利な価格で新株を発行したことを理由に被告宮内モーターの新株二〇〇株の発行を無効とする判決(以下「長岡支部判決」という。)を言渡し、長岡支部判決は確定した(甲一三)。

登記簿(甲一一の一)には、被告宮内モーターは、昭和六〇年三月一六日に発行済株式の総数を三〇〇株、資本の額を九〇〇万円に変更したものの、長岡支部判決確定により、発行済株式の総数を一〇〇株、資本の額を三〇〇万円に回復した旨記載されている。

11  登記簿(甲五の一)には、被告三条中央は、平成六年七月二五日に資本の額を四〇〇万円に変更した旨記載されている。

12  平成七年一一月二五日、被告三条中央は、本件新株発行(一)を行うことを、取締役会において可決した(甲四の二)。

登記簿(甲五の一)には、被告三条中央は平成七年一二月一三日に発行済株式の総数を七〇〇株、資本の額を一〇〇〇万円に変更した旨記載されている。

13  なお、本件新株発行(一)に際して、原告は四四株分(金額四四万円)を現実に出資している(争いがない。)。

右出資については、同年一一月末ころ、被告三条中央の当時の代表取締役であった土佐久夫が原告を呼び、「西潟君、増資するから、君は四四万だ。」と言われ、原告が四四万円を被告三条中央に支払ったものである。

原告は、土佐久夫から被告三条中央への出資を求められたことから、被告宮内モーターの増資の予定や増資に際しての原告の出資の必要性についてはどうなるのか疑問に思い、被告宮内モーターの代表取締役であった関存に問い合せたところ、「こんなつぶれそうな会社でだれも増資したくないのに、そんな金なんて必要ないだろう、君も関係ないんだから。」と言われた。

このため、原告は、被告宮内モーターは、増資の予定がないものと考えるに至った。

14  平成七年一一月一日、被告宮内モーターは、本件新株発行(二)を行うことを、取締役会において可決した(甲一二)。

同月四日、被告宮内モーターは、本件新株発行(三)を行うことを、取締役会において可決した(甲三の二)。

登記簿(甲一一の一)には、被告宮内モーターは平成七年一二月七日に発行済株式の総数を四〇〇株、資本の額を四〇〇万円に変更し、同月一三日に発行済株式の総数を一〇〇〇株、資本の額を一〇〇〇万円に変更した旨記載されている。

二1  本件新株発行(一)に際して、被告三条中央が原告に対する引受権の通知(商法二八〇条の五第一項)を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

本件新株発行(一)に際して、被告三条中央が株主一般に対し新株発行の公示・通知(商法二八〇条の三の二)を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

2  本件新株発行(二)、(三)に際して、被告宮内モーターが原告に対する引受権の通知(商法二八〇条の五第一項)を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

本件新株発行(二)、(三)に際して、被告宮内モーターが株主一般に対し新株発行の公示・通知(商法二八〇条の三の二)を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

3  本件訴え提起は、平成八年六月三日であり、本件新株発行(一)ないし(三)のときから六か月以内である。

三  前記一で認定した事実によれば、たしかに、被告両名の設立時に、西潟洋一が自らの出捐で出資金を出した事実はなく、長岡モーターが長岡信金から借受けた金員の一部が、西潟洋一名義で金融機関に振込まれたものであることが認められる。

しかしながら、右一で認定したとおり、西潟洋一は、現実に被告両名の代表取締役として、約五年間にわたって被告両名の会社の経営に関与していること、西潟洋一は、被告両名から代表取締役としての報酬を現実に支給されており、その額は、丸山久作が、西潟洋一名義で金融機関に振込んだ金員の何倍にも相当すること、被告三条中央との関係においては、本件新株発行(一)に際して、原告は被告三条中央から出資を求められていること、被告宮内モーターとの関係においては、長岡支部の裁判において、「原告は、被告宮内モーターの株主であり、一〇株を所有している。」旨の原告の主張に対し、被告宮内モーターは、右主張事実を認めていることから、西潟洋一は、被告両名の株主であったものと解するのが合理的である。

また、丸山久作が、西潟洋一名義で金融機関に振込んだ金員は、長岡モーターが原告に贈与したものと解するのが相当である。

四1  新株発行に際しての新株引受権を有する株主への引受権の通知、新株発行の公示・通知は、新株発行により株主が不利益を受けるのを事前に防止する機会を株主に与える点にある。おもうに、取引の安全を考えるならば、手続違背を理由に新株発行を無効とすることについては慎重にならざるを得ない。

そして、本件新株発行(一)においては、原告は、被告三条中央から新株発行の事実を事前に知らされ、かつ、現実に出資して新株を引き受けているのであるから、本件新株発行(一)に際して原告への引受権の通知、株主一般への新株発行の公示・通知を欠いても、それ自体重大な瑕疵とは言えず、本件新株発行(一)の無効原因にはならない。

2  これに対し、被告宮内モーターは、過去にも、商法二八〇条の三の二の公告、通知を欠いたことを理由に、原告から新株発行無効確認の訴え(長岡支部の裁判)を起こされ、長岡支部判決において、被告宮内モーターの新株二〇〇株の発行を無効とされている。

にもかかわらず、被告宮内モーターは、長岡支部判決の理由中において株主とされている原告に対し引受権の通知を行わず、かつ、株主一般に対する新株発行の公示・通知も行わず、原告の知らないうちに本件新株発行(二)、(三)を行っており、手続違背の程度は極めて重大なものといえる。

したがって、本件新株発行(二)、(三)は無効なものと言わざるを得ない。

五  よって、主文のとおり判決する。

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